ホテルは市内の中心部から少しだけ川下に向かったところにあった。それほど大きくなく全室リバービューがウリらしい。
タイのホテルでいつも思うのだが多くはチェックイン時に予約した本人のIDしか見ない。同行者の名前などついぞ聞かれたことがない。
トータルで何名、それだけのようだ。したがってあたしはヒマでレセプションのあたりをブラブラする。
裏手にメコン川が見える。
すこし残念だったのは水量の関係か川原が広く、ちょうど遊歩道の建設中だったこと。できるなら川原を歩いてメコンの水にふれたかった。
庭にポストが立っていた。
聞いてみると大きいのは実際に使っているそうでここから絵葉書などを送るようだ。
「小さいのは」
「あれは飾りです」
レセプションの女性が微笑んだ。
部屋は清潔な感じがして好感が持てた。
妻は怒りっぽい亭主のためにとくにホテルのチョイスには神経をつかう。
むかしタイ東方の島へ行った。
二泊の宿泊予定だったが民宿みたいなホテルで、部屋の前が浜辺へ行く道になっており人の往来があってカーテンを開けたままじっくり考え事もできない部屋だった。
即座にぶち切れたあたしは部屋のチェンジを要求したがよい部屋がなかった。
結局一泊しただけでバンコクへ戻った。
あのころはわがまま関白そのものだった。
いま考えてもあのとき妻にはかわいそうなことをした。いくら腹が立っても妻を悲しませてはいけない。バカな亭主だった。
あのときだけではなく妻には悲しみや寂しさを幾度も味わわせてきた。
それだけにいつも彼女が笑顔でいられるようにとあたしなりの心づかいを戒めとして自分に言い聞かせるようにはしているつもりなのだ。
四階の端部屋は窓が大きく明るかった。
喜ぶ妻をみながら心の中で「ありがとう」とつぶやいてみた。
いくら心で思っても言葉にしないと伝わらないこともある、それはわかっているのだが。
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