大晦日に近い日の午後。
電車は空いていた。
始発駅からわたしの隣りへ座った初老のご夫婦。
コートを脱いで膝に置いた旦那さん、きっちりとスーツにネクタイ。どこかの元社長といってもおかしくない。
「しかしあれだな、都会の人間はみんなずぼらものだな」
旦那が口を開いた。
奥さんは黙ったまま。
「旨いものはそれがある現地へ行って食うから旨いのだ。しかし都会の者はなんでも電話一本で取り寄せればすむと思っている。本当の味を知らんのだ」
大声ではないが周囲に聞こえるほどの声で旦那がつづける、
「それに、なにかあればCo2削減だとやかましい。自分達がCo2を出していることに気がついてないんだ。頼めばすぐに物がやってくると勘違いしているんだ。配達のトラックが日本中網羅してどれだけのCo2を出しているのか、分かっていないんだ都会の人間は」
「はぃ」
奥さんは小さな声で相槌をうつ。
二人でなにか旨いもの市でもみてきたのだろうか。
私はちょうど急ぎのメールがきて、その返事を打つのに忙しかった。けれど旦那の言葉は否が応でも耳に入ってくる。
彼はよほど都会が嫌いなのかもしれない。みたところけっして田舎者にはみえないが。
「トヨタがやっと水素だといいはじめた。遅すぎるんだ、そんなことはとうに分かっていたことじゃないか。商売第一で電気だ電気だとさんざんいってきてなんだ今頃」
今度は天下のトヨタに怒りはじめた。
「電気じゃだめなんですか」
奥さんはなかなかの聞き上手。長年連れ添い、うるさい旦那の扱いになれているのだろう。
「そりゃそうだ、電気をつくるのにどれだけのCO2を出していると思ってるんだ」
「そうなんですか・・」
私の降りる駅がきてしまった。
できることならこのまま旦那の演説を聞いていたかったが、うかっとなにか言ってしまいそうになるだろうからなんとなく安堵もあった。こんな場所でいい年のオッサンが口論してもはじまらんだろう。
それにしても、家でもこのような話がつづくのだろうな。何十年もそんな旦那の相手をしてきたのか奥さん、これが愛なのかな。
すこしだけご挨拶。
今年も一年ありがとうございました。
来年こそはと、もういわないでおきましょう。
桜の春ごろまでは暗い世界そして先の見えない日本がつづくでしょう。
でもせめてあなたの周りだけでも小さくてもよいですから幸せの芽がたくさんみられますようにちい公心よりお祈り申しげます。
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