タイへ戻る日の朝、外の天気を眺めていた妻が言った。
「川べりへ散歩に行きたい」
飛行機は夕方だから時間は十分ある。
今回の冬旅。ひとつでも多く思い出をつくっておきたいのだろう。
穏やかな日。
「お弁当買お。ピクニックみたいで楽しいでしょ」
魚が食べたかったあたしは鮭の入った幕の内。
いつものことだが妻はなかなか決められない。まるで一生に一度の大きな買い物をするよう。
そして結局はミンチカツの入ったのり弁。
![DSC_1807[1][1]](https://blog-imgs-118.fc2.com/i/s/a/isanwind/20180209103434570.jpg)
![DSC_1805[1]](https://blog-imgs-118.fc2.com/i/s/a/isanwind/20180209103433562.jpg)
ビニール袋を提げてプラプラ歩く。
二人とも今日旅立つことにはもうふれない。口にすれば寂しさがつのるだけだから。
土手を越えて川べりに下りると思ったより風が強い。
もうお昼前。
ベンチに腰を下ろしてすぐに弁当を開いた。
妻はあたしの風下に弁当を置き、しゃがんだ姿勢で食べ始めた。
風が強く冷気がご飯といっしょに入ってくる。
二人とも顔を見合せて、そして笑った。
「ダメだなこりゃ」
「おかずが飛んでゆきそうだわ」
「こちらも鮭が飛びそうだよ」
そしてまた笑った。
それでも二人とも全部たいらげた。貧乏侍一家はたくましい。なんせ亭主は元ノラ公なのだから。
帰りながら妻がクスクス笑う。
「今度は暖かいときにチャレンジね」
また日本へ来る気なのだ。
次回からは他の国へ行くという話はどうなったのかな。