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    ああ夏休み 都会の夏

    日々のドキュメント 旅  アジア 
    07 /31 2018


     

     中学二年の夏、一家は県庁のある町へ引っ越していた。

     山村の未来に見切りをつけた母の決断だった。高校へ行くにしても近くの町でも下宿するしかない。ならばいっそのこと高校もたくさんあるもっと大きな町へ行こうということだった。

     母はこのころ化粧品のセールスでそれなりの目算もあったのだろうが、大きな決断であったことにかわりはない。

     町の中学校での一年半、そして高校、大学の時代を過ごすことになった海辺の家。
     
     だが、なぜか中学生時代の夏休みの記憶がない。
     枕元に海鳴りが聞こえる場所だったのでおそらく夏のほとんどは海へ出かけていたのだろう。だがこれといった鮮明な思い出がない。

     ひとつだけ覚えている夏。
     近くに住んでいた伯母がよく連れて行ってくれたカニ捕りの記憶。
     魚屋でもらったサバの頭を竹の棒にくくりつけ、そして竹網とバケツ。

     五分ほど歩けばもう海。
     テトラポットが並ぶ海岸。
     カニ、ほとんどはワタリガニの類だろう。水の中にサバの頭を差し込んでおくとすぐにカニが出てくる。カニがサバにしがみついたところを網ですくいとるという簡単な漁。


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     伯母は釣りも好きで、最初に教えてもらったのはキス釣りだった。
     テトラの上から竿を出す。面白いように釣れた。

     海釣りをおぼえたのはあのころだろう。
     渓流釣りしか知らなかった少年にとって海釣りはなんとも単純に思えた。渓流釣りなら足音を消してそっと竿を投げ入れるのだが海ではそこまで神経をつかう必要もなかった。
     バケツ一杯の釣果をみながら、海の魚は鈍感だと思った。


     近年、妻を連れてあの海岸を訪れた。
     かつて自分たちが暮らした小さな家はもうなかった。
     そして思い出の海岸。
     沖まで突き出したテトラポットの列は砂でうずまりきれいな海水浴場に生まれ変わっていた。

    「あなたがここにいたのね」
    「まさか今になってここへ来るとは思わなかった。それも、はるかタイから・・・」
     つぶやく夫。

     妻はそれ以上何も言わず、ただシャッターを押していた。

     
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    ちい公

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    空ゆく雲のようにいつも自由でありたい。もとノラのちい公がお届けするごく私的な日常と愛する国そして人々への思い