
冬休み前だったか、最後の全国共通模試。
ちい公は文系志望コースでついに頂点、校内トップに立った。
母校は当時それなりの進学校でもあったからこれで志望の有名大学への可能性がようやく見えた。
早い大学では2月の初めころから入試がはじまった。
大阪、京都、東京。
受験費用もバカにならず親に無理をさせた。大学によっては自信はないこともなかったが、それでも不安が勝っていた。
はじめてなんとなく自分でもできるのではと思えたのは関西で最初の結果が出たときだった。
次は京都の同志社。前日に泊めてもらった大阪の先輩大学生が言ってくれた。
「すでにひとつ突破してるんだ。あそこが受かったのだから同志社なんて軽いよ。自信をもって行ってこい」
ひとつだけ書いておこう。
同志社は文学部新聞学科が志望だった。
あの日、試験が終わった後、よしここは受かったたなと思った。
理由はいくつかあるのだがごく単純な話。
英訳設問でひとつの単語がどうしても思い出せなかった。それもAから始まる単語だった。
【ANCIENT】という単語。どうしても思い出せず前後の文脈から推測するしかなかった。答えは、古代の云々という文章だったが自分は、大昔の・・・という訳文にした。
外でもらった予備校の解答速報。
古代の・・・とは書けなかったが日本語訳としては間違っていないだろう。そう思うと急に自信がわいた。
これもまた大して根拠のない自信だったが他の科目はできたはずだ。そして早朝の速達で合格通知がきた。
卒業式が近くなったころ、学校では各大学の合格者が随時貼り出されていた。
いくつかの合格者名簿にちい公の名前もあった。
みんなが祝福してくれた。それまで口をきいたこともなかった女の子までがおめでとうを言ってくれた。
いっしょに勉強した彼も第一志望を突破していた。
好きだった女の子がプレゼントをくれたという。
「だけどな、彼女はCAになるんだって。パイロットが相手じゃ太刀打ちできない、もう終わりだよ」
ピアノが上手でフランス人形のような女の子だった。
その後、彼女は日航に入り目的を達成した。
大学を休学し世界一周の旅に出た彼が好きだった彼女の飛行機に乗ったかは定かではない。

三年生で別のクラスになっていた自分の彼女もお祝いに来てくれた。
友人たちとワイワイ騒いでいたとき彼女が教室に入ってきた。
みんな一瞬静かになった。
誰かが自分をつついた。
彼女との仲は周知の事実。
彼女はまっすぐこちらに向かってきた。
「おめでとう」
「うん」
それしか言えなかった。
彼女は小声になり、
「今日帰りにね」
「うん」
青春時代の成り上がりヒーローは短編映画だと知る由もなかったあの頃。
ああ夏休み 高校編、書けばきりがないからこれでおしまいにしよう。