
いざとなれば引っ越しなんぞ、どうってことはない、と高をくくっていたちい公ダンナ、魔女奥さんに、
「来週末に引っ越しね」
宣言されてしまった。
田舎に行けると多少楽しみにしていたのだが、ここにきて大都会バンコクに未練のようなあるいは一抹の寂しさにも似た感情が湧き出ていることに気がついた。
これぞまさしく都落ちか。
とはいえあたしの都合で落ちてゆくわけでもなく、また奥ちゃんが地方に追いやられるのでもない。
彼女にとっては将来への安定した基盤づくりであって、あえて言えば空行く雲のような三文亭主を持つことになってしまった女の細腕繁盛記みたいなものだろうか。
会社から戻った奥さん、何を言い出すかとおもえば、
「会社の子たちがあなたのことを心配してるわ。みんなあなたの気分を気にしている」
「なんで?」
「田舎へ行くのでかわいそうと思ってるんじゃない。だってあなたは街の人だから」
「あたしゃね、奥さんのゆくところラオスだってミャンマーだってどこでもついてゆきますよ。なんせ忠犬ちい公だからワンワン」
夜になって妹POMからLINEがきたという。
Pernおばちゃんの引っ越しが来週だとママに聞いてミルキーが、
「Pernおばちゃん、行ったらいやだ、いやだよぉ」
泣いているのを録音してママが送ってきた。
じつは妹POMも同じ思いなのだ。せっかくすぐ近くに住むことができたのにという思いがあるようだ。
音声メールを聞いた魔女おばちゃん、すぐに目を真っ赤にして唇をかんだ。
「ミルキーかわいそうに・・・」
「何を言ってるんだ、外国へ行くわけじゃないんだよ、たかがすぐそこアユタヤじゃないか」
あたしもそれ以上なにも言えなかった。彼女たちの気持ちはよくわかる。第三者が思う以上に強い結びつきがある。
「明日、POMとランチするわ」
「そうかそれはいい」
「ミルキーの様子も聞きたいし、それに洗濯機を決めとかないとね」
新しい洗濯機、雨が続いても大丈夫なようにドラムの乾燥式を買うという。
「それはいいね」
ちい公はただ賛成票を投じるのみ。
我が魔女キングダムで白票以外はありえず、もし間違って反対意見などを表明すれば『鎖つなぎ三日の刑』かもしくは『呪い涙の刑』によって地獄の責め苦を味わうことになる。
「さんせ~い、さんせ~い、はんたいのはんた~い」
今日も我が国家は平穏なり。
突如出現した魔女帝国



辺りにはなあんにもニャイ
