
妻たちが首をながくして待っていた日本旅。
金曜日の深夜便で日本へ。
我々は夕方5時ごろにアユタヤを出る予定。
妻はオフィスを休み朝から旅行の荷物づくり。
あたしの荷物といえばパソコンとちょっとした本や書類だけなのでショルダーに入ってしまう。
何かの景品で手に入れたという少し大きくなったキャリーケースが奥ちゃまから支給されたが中はガラガラ。日本へのお土産入れになってしまった。
妻や妹たちは待ちに待っていた旅行なので興奮しているようだ。
あたしはすこし寂しい気分。
これでまたしばらく帰ってこれない。日本に行けば行ったでやることがある。それをすますまではタイへもどれない。

いつも騒々しいバンコクから静かなアユタヤ郊外へ来た。この静寂と快適さがすっかり気に入ってしまった。住まいも前よりは狭くなったが騒音がほとんどない。
環境にも慣れ、さあこれからという時なのだが予定はどうしようもない。
「さあ行くぞニッポン」
声に出して言ってみるが寂しさを紛らす強がりのようにも思えひとりで照れる。
「Okay Let's go Japan!!」
妻も合わせて声を出すが、数日の旅が終われば再び離ればなれの生活が待っていることを分かっている。心底から喜べないお互いの気持ちをそれぞれが痛いほど理解している。
しかし、だからといってこの旅を楽しい思い出にしないという手はない。なによりも妻はツィンズの妹と一緒にゆく初めての海外旅行となる。病気や別離などで厳しい幼少期を越えてきた二人には貴重な時間なのだ。
彼女たちのためにも楽しく記憶に残る旅にしなくてはならないし、またそうであってほしい。
今日も良い天気のアユタヤ。
午後になるとなんにもやることがなくなってしまった。
「昼寝する」
「そうしなさい。わたしは洗濯物を片付けたりするからね」
知らぬ間に眠ってしまった。
そして夢を見た。
たわいもない夢だったがなぜか妻が笑っていた。そしてその声が『ケケケっ』と聞こえたような気がした。
・・・うん?
目を開けて天井を見回す。ヤモリだった。彼らは人間が静かになるとどこからともなくあらわれる。
「チンチョ(ヤモリ)よ、あなたのお友達が挨拶してるわ、行ってらっしゃいって」
「あっそうだ、言い忘れた。留守の間ベッドカバーを忘れないようにね。ヤモリがベッドの上を這いまわるかもしれん」
二人が留守の間この部屋は彼らの天国になる。まあおかげで蚊やクモなどの虫がいなくなるのだからありがたく思わないと。
どうもいかん。
まだアユタヤを出ない。
