
新大阪駅で友人と会う妹たちを残し妻と二人でガラガラとバッグを引きずりながら倒れ荘に向かって歩く。
久しぶりの旅で嬉しそうな妻。
ほんの数日の休暇だが懐かしそうに歩く彼女を見ていると胸にこみあげてくるものがある。
いつもそばにいる、そんな当たり前の日々が大切なのだとあらためて思う。
いつもと違う道を歩く。
「あとで一人で駅まで戻れるか」
「大丈夫よ、目印になるコンビニなど覚えているから」
「とにかく駅はあっちだから太陽の動く方向をみて東と西を見ておくことだ。だから北はあっちだよ」
まるで砂漠を歩いているような話。そうだ都会は砂漠だ、あるいはジャングルかもしれない。
「わあミニミニがあった」
妻は仮住まいのことをこう呼ぶ。
度重なる台風にも耐えて倒れ荘は立っていた。当たり前だが今年は例年と違いあちこちで大きな被害があった。
日本の妹がときどき見回りに来てくれており部屋も問題はなかった。
荷物を置いた妻は妹たちが待つ駅に戻った。
掃除などをすませ午後になった。
チェックイン可能な時刻になったので駅近くの民泊ホテルへ。
タイのファミリーのために用意したホテルを見ておく必要があった。
駅近くのホテルは3人ともなればかなり高額で比較的安い民泊ホテルをリザーブしていた。5泊で税込み6万ちかくになる。安いのかどうかなんともいえない。
しかしおもしろい時代になったものだ。
流行りのような民泊。
マンションをホテル用に改装し、受付カウンターは無人。チェックインは備え付けのタブレットで通信する。部屋のキィは教えられた暗証番号で開くボックスにある。
3階の部屋。
2ベッド、キッチン、洗濯機など生活用品がすべてそろっている。機能的だともいえるがそれほど広くはない。しかし清潔そうで安心した。
ホテルを出てタカ君Barberへ。
戻るとまず顔を出す。恒例行事みたいなものだ。高齢のお母さんがいるのでそれも気になる。
よかった、いつものように閑古鳥がうるさく鳴いていたが店も無事にあった。そしてお母さんもお元気なようだ。
今回は妹たちも来るというので彼はお菓子を用意してくれていた。
「滞在中に部屋で食べて」
「ありがとう。でもここへ妹たちも連れてくるからそのときミルキーに渡してやってよ」
チビッ子にはすこしでも多くいろんなものを見せてやりたいそして日本で会った人々のことも記憶にとどめおいてほしい。
この日は夜の食事までひとりで過ごすことができた。
嵐の前の静けさでもあった。