高校生活が始まっていた。
この時期、日々の生活にバイクはあまり登場していない。
高校生活ではそんなことより楽しいことがたくさんあった。
同級生に数人だけバイクを持ってはいたが、乗り回して遊んだという記憶は少ない。
テスト前などになるとよく集まったのが建築屋の離れ屋。同級生がひとりで住んでいて試験勉強を口実にして夜っぴて騒いだ。
その家に親から譲り受けた古いバイクがあって、勉強に飽きるとバイクで夜中の町を走り回った。
全員が免許など持っていなかったが頓着しなかった。
まだ1年か2年生だったので貧乏人のお坊ちゃまもまだ大学受験に目覚めてはいなく、不良でもなかったがどちらかといえば悪童の一員だった。
ガソリンがなくなった。
もちろん金もない。
「行くか」
誰かが言い出し、ゴムホースを持って出かけた。
いま思えばとんでもない話だ。ガソリンを盗みに行く。
当時の自動車とくに小型四輪はガソリン給油口がロックされていないものが少なくなかった。
ふたを開けホースを突っ込みチュウチュウと吸出し、ガソリンが口に来る前にサッと瓶などに差し込む、それで一丁上がりというわけだ。
もしあれが御用にでもなっていたら高校も停学ではすまなかったかもしれない。
いろいろな意味で危ないことをしていたものだ。
考えるにつけ冷や汗が出そうだが、あの頃どうしてそれほどビクつかなかったのか不思議でもある。
まるで別世界の出来事であったような気さえする。
バイクといえばあの頃、同じ中学から同じ高校に進んだ知人がいた。
文系の坊ちゃまとはちがって彼は理数系のクラスに入っていた。
どういうことでそうなったのか忘れたがある時、彼に誘われた。
「今度の日曜日バイクで遠出しよう」
彼はちゃんと免許を持っていた。

県境を越えて走った。
何の目的もなくただ走った。
後ろに座っているだけだったが楽しかった。初夏の風が心地よかった。
女の子とデートする以外にもこんな楽しいこともあるのだと思った。
どういうことからそんなことになったのか。
多分楽しかったのだ。浮かれていた。
信号もない直線道路。
彼の背中を、ちょうど馬に鞭を当てるように「それ走れ」「行け、いけ」まるで騎手気分だった。
前方からパトカーがすれ違っていったのも知らなかった。
「それ行け、ピシピシっ」
そのときだった。
「ウ~ウ~~、前のオートバイ停まりなさい」
背後からサイレンが聞こえた。
先ほどのパトカーがUターンしてきたらしい。
違反に問われるほどスピードは出ていなかった。
ただ免許証の提示を求められた。
警官の話で分かったのだが、後ろに座ったあたしが運転する彼の背中を叩いている動作が、ポリスが来たからヤバイぞと知らせているように見えたというのだ。
どうも怪しいということで職質になったらしい。
あれこれ訊かれただけで解放された。
悪童だとはいえ警官に職質されるのはそうあることではない。
おかげで忘れられない日になった。
彼はその後一浪して東京の有名工業大学に進み、役人になった。
いつか機会をとらえてあの日の思い出話ができればと思う。
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