駅前通りの小さな喫茶店。
お客は二人だけだった。
4年生になってからバイトなどに忙しく時間がなかった。
だから二人が会うのも久しぶりのような気がした。
そうか君は化粧をするようになったんだ。
彼は思った。
そうだよな、もう卒業の年だもの。
「なに? 話って」
彼はなにもわかっていなかった。
彼女がどれだけ追い詰められているのか知る由もなかった。
「どうしてもお見合いをしなければ」
彼女のそんな言葉さえ遠い世界の出来事のように聞こえた。
「どういうことさ。結婚するのか」
彼女はそれには答えず、ただ彼の顔をじっと見つめた。
そして、
「あなたと結婚できる?」
ようやく絞り出した、すこしふるえるような声だった。
彼はなにも言えなかった。
ほんの数歩で届きそうな未来があることはわかっていた、けれどまだ不安のほうが大きかった。
意気地がなかったのだ。
いざとなれば二人で逃げよう。
そう言えば彼女はうなずいたに違いない。
だが彼はなにも言えなかった。
意気地も度胸もなかった。
「そうか、わかった、別れたいということか」
そんな言葉しか出なかった。根拠のない強がりだった。
16歳の秋にはじまった青い旅路。
その終着駅がはっきり見えた日の物語。
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