日暮れが迫ってきた。
知立神社に別れを告げてさくらさんの車はふたたび走り出した。
どのくらい走っただろう。
右折した車がすべりこむように入ったのは駐車場らしかった。
夕ご飯にどこかの旅館を予約していたのだろう。
「はいみなさんどうぞ」
ガイドのさくらさんにみんなぞろぞろとつづく。
「はい、いらっしゃいませ」
消毒用のアルコールを差し出したのはおかみさんのようだ。
「あ、ありがとうございます」
手を差し出しながらおかみの顔を見た。
「どっかでお見かけしたような」
「なに言ってるんですか。マスクを外しただけでしょ」
バカじゃないの、とは言わなかったが、言葉の裏を読むにかけては玄人はだしのあたしにはそう聞こえた。
こんな話を続けるとどこまでも止まらなくなる。
時を戻そう。
まだまだお酒を伴う店は安心じゃないということで夜の会場はさくらさんがお家を提供して下さったのだ。
さくらさんがお土産にと用意して下さったもののひとつにこんなのがあった。

この型を見たとき不覚にも「あ、タイ焼きか」と口に出そうになった。よくよく考えてみれば木の型でどうしてタイ焼きが作れるのだ。ほんとにどうしようもない。
愛知県の方ならご存知だろう、これは【おこしもの】というお菓子。とくに三河、尾張地方でひな祭りのときにつくられる。おこしもんなどとも言われ、木型から起こすのでそう名付けられたという説もある。

異星人のような訪問者のためにさくらさんがわざわざこしらえて下さったのだ。
これはいただいて帰って、いくつかオーブンで焼いた。餅とはまた違った風味があって、長く培われてきた風習に思いをはせるに十分なお土産だった。
残りは冷凍にした。いつかまた楽しかった日を思い出しながらいただきましょう。
なにより手間暇をかけてつくって下さるその気持ちに感銘を受けた。
この旅の初めに書いたが、額装の和歌を書いて下さったのもさくらさんだ。
お菓子といえば、栗鹿の子、これはとっとちゃんがみんなに持ってきてくれた。
栗がゴロっと入っていてやさしい甘さ。
一つだけいつかと残していたが食べてしまった。
酒もよいが甘いものも美味しい。


みんな、よく喋りそして笑った。
楽しい夜だった。
あっという間に宴の時間はすぎた。
最寄りの駅まで送って頂いた。
我々二人はそこから名古屋駅まで行き新幹線に乗る。
「じゃまたね」
とっとちゃんが手を振った。
そして、そのまま夜空にふわっと浮かんで消えていった。
・・・とっとちゃんは魔女だってドールブログのお嬢が言ってたが、あれはほんとだったんだ。
あたしとことぶきタカ君は何も言わず、今度は、さくらさんの車が消えるのを見送った。
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