ビザの季節がやってきてタイ領事館へ。
久しぶりだった。
顔見知りのお姉ちゃんはもういないだろう。
領事部のビザセクションにいた彼女と親しく口をきくようになってから何年か。
生粋のタイ人なのに日本語の読み書きが堪能。当然といえば当然なのだがなかなかの日本通で、タイ外務省に採用されたのも理解できる人材だった。
コロナワクチンがゆきわたり渡航禁止が解除された頃にはまだそこで働いていた。
お互いに無事を喜び混雑も忘れて話し込んでしまった。
ビザの申し込みは午前中1時間単位の予約制になっているので今は以前のような混雑はない。
私が予約したのは9時30分から10時30分までの時間。
10分前に着いてしまったが早めに上がっていった。
エレベーターで一緒になった彼は大きなラッゲージを引いていた。
「これからすぐ出張ですか」
領事館へ来る日本人でこんな旅支度のサラリーマンはめずらしい。すこしおもしろくなって余計なことを聞いた。
大阪に出張があってそのままこちらでビザの手続きをして発給され次第タイへ行くのだという。
「31日までに来いといわれてるんです」
大変だな企業戦士。頑張ってね。そういってから、
「すみませんね、まるで他人事みたいに、でもまあ他人事だけど」
二人とも笑ってしまった。
タイのスワンナプウム空港からほど近い企業団地だという。むかしからある企業団地で自動車とか関連会社も多いところだ。そこでしばらくのタイの生活がはじまるのだろう。
しっかりした会社らしくすべての書類は完備していたようでビザの受領日を告げる声が聞こえてきた。
まだ30そこそこの若者だった。どうか元気でがんばってほしい。
ビザ発給のための書類を片手に持ち私も受付へ。
向こうに立っていたのはなつかしい顔だった。マスクのない顔、満面の笑みの見本のような笑顔が迎えてくれた。
「おお、まだいたのか、なつかしいなあ」
「ほんとに、お久しぶりです」
相変わらず流ちょうな日本語。
「何年ぶりでしょう」
「でも1年くらいかなあ」
すると私のパスポートをパラパラとめくり、
「でも2年近いですよ、前のビザが切れてから来てないですよ」
「そうかしばらくビザなしで行ったり来たりしていたかからか」
「あ、そうだ」
私は思い出した。
この冬、妻が日本へ来たとき、いつもビザのことでお世話になっている領事館へ行ってみたいといった。けれど多分顔見知りの○○さんはもう転勤していないかもしれないと領事館を訪ねなかった。
「まだいたんですよ。来てくれたらよかったのに」
「そうか君に会いたがってたのに残念だったな。あ、そうだ、今年の12月にまた来るけど、こんどの異動時期は10月か、どうだろうね」
「いますよきっと」
「なんだそれ。日本に永住するのか」
そんなことをしゃべって、声を出して笑った。私たちのしゃべり声だけが響いているようで後で気になった。
そんなこんなでビザは発給されることになった。
申請書類も各種そろえたが問題なかったらしくなにもいわれなかった。
最後に、手数料を払う段になった。
「22000円です」
「高いな、すこしまけてくれない、知ってるだろうけど金がないんだよ貧乏なんだ」
彼女が真剣に困った顔になって、それでまた大笑いした。
2日後にビザが出れば、予定通り来月、渡り鳥は南へ飛んでゆく。
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